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側弯の診断とコブ角

側弯症は、レントゲン検査によって診断され、背骨の弯曲の程度は、図4のように、「コブ角」という指標で表されます。

 

「コブ角」とは、脊柱の上下で最も曲がりの強い椎体から直線を伸ばし、その2本の直線の交差する角度のことを示します。

この「コブ角」が10°以上の場合、「側弯症」と診断されます。

​思春期側弯症の自然経過

図4.png

思春期側弯症が進行する可能性は、コブ角と年齢によってある程度予測することが可能です。

 

過去の研究結果では、10-12歳、13-15歳、16歳でコブ角が19°未満であった場合に、側弯症が進行する確率は、それぞれ、25%、10%、0%であることが示されています。

 

一方、40°以上であると、16歳でその後進行する可能性が70%とのことでした(Lancet 2008; 371: 1527)。

 

これらのデータから推定される思春期側弯症の自然経過は図5の通りです。この図は、上下がコブ角(上に行けば行くほど進行している)、左右が年齢を表しています。

 

思春期側弯症患者さんは、図中①のようにほとんど進行しない方(側弯症と気付かれないことも多い)や、②のように進行するが特別な治療を必要とせず成長期を終えられる方が多い一方、③のように進行してしまう方もおられます。

 

現時点で、診断時にその患者さんの経過が①、②であるのか、もしくは治療介入を要する③であるのかを区別する方法はありません。

 

このため「経過観察」し、進行の程度を見ていく必要があるわけです。思春期側弯症は、①や②のように、成長期を過ぎ身長の伸びが緩やかになると共に、進行の勢いもなくなることが一般的です。目安として、胸椎カーブが45~50°、胸腰椎もしくは腰椎カーブが40°になる前に成長期を終えることができれば、その後に進行することは少ないとされます。

しかし、成長期が終わる段階で、コブ角が40~50°以上になるまで進行してしまうと、成人以降も緩徐に進行する可能性が報告されています(図中☆)。

 

このため、③の経過をたどる方は、側弯症の進行を少しでも遅らせるような治療を行うことで、成長期終了時にコブ角が40~50°まで到達しないようにすることが目標になります。

図5.png

リッサーサイン(Risser sign)とは?

実際の診療現場では、コブ角だけでなく、骨盤の腸骨という部分の骨(お尻の部分)を見て、リッサーサインという指標を評価し、背骨の成長程度を把握しています。

 

リッサーサインは、腸骨の上の外側から内側へ骨の成熟(骨化)が進んでいく過程をみたものです。

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グレート 0 (骨化がみられない)、グレード1 (骨化が25%)、グレード2 (50%)、グレード 3 (75%)、グレード4 (100%だが骨盤との融合なし)、グレード 5 (骨盤部の融合)の6つに分類されます(図6)。

 

身長がまだまだ伸びるのか、装具治療や手術療法などの治療が必要か否か、等は、実年齢だけでなく、リッサーサインを含めた情報から総合的に判断されます。

思春期側弯症の医師と患者さんの間のギャップ

一般的に側弯症の治療は「経過観察」、「装具治療」、「手術」のみ、と表現されることが多いと思われます。

 

一方、患者さんにとってみると「経過観察」とは何もしないこと。なぜ装具が必要になるまで「放置するのか?」と疑問に思われ、この点が医師と患者さんの間に大きなギャップを生んでしまう原因となっています。

 

「放置」するなんて耐えられないと考える患者さんは、ネット上で「○○整体」、「○○体操」などの情報を入手します。

 

そして、恐る恐る先生に相談すると、「そんなものは全く意味がありません」と否定されてしまいます。

 

強く否定されてしまうと怖くなり、それ以上何も聞けない状態になってしまいます。一方、整形外科医の立場に立ってみると、「治療効果が科学的に証明されていない治療」をあたかも効果があるように見せて、患者さんを誘導している。

 

そんな状況だから、患者さんが迷ってしまうんだ、という気持ちになり、正義感に基づき、これらの治療を強く否定してしまいます。

このような状況は、患者さんが先生にさらに聞きづらくなり、医師もこれらを否定するために多大な労力を要している、という悪循環を生み出しています。

「経過観察」=「放置」と誤解しないで頂くために。

「伝え方」の問題を一つ一つ解決するため、最初に、「経過観察=放置」という誤解を少しでも解いておきたいと思います。

側弯症の治療は、「経過観察」、「装具治療」、「手術」と横並びに説明を受けることが多いです。

 

しかし、「経過観察って治療なの?」と疑問を抱かれるお気持ちはとてもよくわかります。この疑問は正しく、「経過観察」とは、厳密にいえば「治療」ではなく、「治療が必要か否かの予測」をしていると思って頂ければと思います。

先程、思春期側弯症は、多くの方が①や②のように特別な治療を必要としませんが、一部で③のように進行する方もおられるというお話をしました(図5)。

 

しかし現状で、目の前の患者さんが①であるのか③であるのか判別する手法はありません。このため経過観察し、もし③の経過であるならば、適切な時期に装具治療の開始を検討するわけです。

 

③の方にとってみると「放置している」と感じられるお気持ちはよくわかります。

 

今後、研究が進歩し、初回の診察時に「血液検査でこの値が上がっているから、あなたは③ですよ」なんて事が分かる時代が来れば、「経過観察」などせずに、診断時から装具治療を検討するといった時代が来るかもしれません (図7)。

 

しかし、そのような鑑別手法が確立していない2017年末現在においては、患者さんを「経過観察」し、この人は①だから大丈夫そうだな、とか、③なので装具が必要になるな、という事を判別していくしか方法がないのだと思います。

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それでは、側弯症の治療目標は何ですか?

前項でお話した通り、思春期側弯症は原則的に、成長期が終わる段階でコブ角が40~50°以下であれば成長期終了時以降、進行しませんが、それ以上であると成長期終了後も進行してしまうというお話をしました。

 

このような背景から、側弯症の治療目標は、①成長期を終える時点のコブ角が40~50°に達しないようにすること、②40~50°を超え、手術が必要と判断された場合には、さらに進行しすぎてしまう前の適切なタイミングで手術を受けて頂くこと、になります。

これは、コブ角が70~90°を超える程度まで側弯症が進行してしまうと手術に伴う合併症のリスクが高くなってしまうこと、が臨床研究で確認されているためです(Spine 2014; 39: 1471-8, Spine. 2008; 33: 519-26)。

側弯症ということで生活の制限は必要なのでしょうか?

生活を制限することによって、側弯症の進行が抑制されるといった研究結果はないため、日常生活を制限する必要はありません。側弯症と診断される前と同様の生活をして頂ければと思いますが、①か③かの判断する必要があるため、定期的な受診は忘れないようにしてください。

一方、「生活制限を行っても、側弯症の進行は抑制されない」といった研究成果もありません。

このため、「放置されている」と感じられ患者さんが良かれと思って試みようとしている行動を全面的に否定する理由もありません。しかし、試みようと考えている「生活制限」には時に経済的なリスク(「費用がかかる」という意味です。)、信仰的なリスク(効果のあると考えられている装具や手術治療を否定してしまうリスクのことです)が含まれていることがあります (図8)。このため、多くの医療者はお勧めしないというのが実際です。(この状況は癌診療で顕著です。)

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